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みっしりとした「虐殺器官」 [本]

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)
伊藤計劃著「虐殺器官」

伊藤計劃の「虐殺器官」を読んだ。

電車の中吊り広告だか,本屋で平積みになっていたのだったか,よく覚えていないが,「虐殺器官」という,なんとも不可思議で衝撃的なタイトルが強く印象に残っていた。最近,Koboの期間限定500円クーポンの使い途に困っていた時,ふと思い出して買ってみたものだ。

話題になっていた本のようだが,特になんの予備知識もなく読んでみた。想像していたのとは違って,近未来SFっぽい設定の,戦争もの? というのだろうか。9・11以降の世界。テロ抑止対策として,最先端技術を駆使し,人々の行動を追跡し認証する社会。主人公は,軍の暗殺を専門とする部隊に所属し,日々上層部からの指令により,問題の人物を排除する仕事をしている。まだしばらくは実現しそうもない技術を用いた兵器や装備などが,さりげなく,しかし克明に描かれているのが,理系人間としては,ちょっと興味をそそられる部分。生々しい,スプラッターな描写もあるが,それでいてグロテスクな下品さは感じられない。逆に,妙に文学的というか哲学的というか,小難しい言い回しで,主人公の思考や,他者との会話が綴られ,軸となる物語は淡々と進行していく。軽薄な印象はなく,むしろみっしりとした濃い文章が詰め込まれていて,スイスイ読み進められるようなものではない。かといって,読み進めるのが苦痛という程でもない。なんとも不思議な小説だ。

こういう作品を好きかどうかは,個人の嗜好によるだろう。読み終えてみて,一体著者が何を言いたかったのか,分かったような分からないような。これだけ非日常の設定では,簡単に共感する方が難しいのは確かだろう。ただ,頭の中にある自分の考え方やものの見方を,軽くかき混ぜられるような感覚は残る。それでいいのかも知れない。学術論文ではないのだから,何か正しいことを導こうとしているわけではないはずだ。こんな見方・考え方がある,ということを客観的に観察するということに,こういう作品を読む意味があるのだろう。

ただひとつ難を言えば,結末がしっくりこない。中で敵役が説明していたことと矛盾する部分もある。せっかく主人公の心の中を細密に描写しながら,唐突な結論に飛躍してしまった感じ。まぁ,この結末が書きたいってのがまずあったのかもしれないが。

この作品が名作なのか,私には判断できない。ただ,今まで読んで来たものとは,極めて異質。レビューを見ると厳しい批判もあるようだが,そんなものに惑わされるべきではない。少しでも興味を感じたなら,一度手に取ってみることをお勧めする。


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