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究極のプライバシー [本]

カッコウの卵は誰のもの (光文社文庫)
東野圭吾著「カッコウの卵は誰のもの」

2月に,文庫の新刊で買ってあった,東野圭吾の「カッコウの卵は誰のもの」を読んだ。

遺伝子のパターンにより,スポーツの潜在能力を持つ若者を特定し,トップ・アスリートに育てる研究およびビジネス,というのがモチーフとなっているお話。ヒトの遺伝子の研究が進みつつある今,この類の話は他にもいろいろありますな。USのドラマ,「NUMBERS」の中にも,遺伝子による選択をモチーフにしたエピソードがあったはず。

ここから,若干ネタバレの話もあるので,未読の方はご注意を。

メインのストーリーは,オリンピックの出場経験のある,元スキーヤーの男が,やはりスキーの道で才能を発揮している娘の成長を喜びながらも,その出生の秘密に纏わる事件に巻き込まれて苦悩する...というようなもの。娘の本当の親は誰なのか,という謎は,終盤に意外な展開を見せる。東野作品にしては,それほど複雑に伏線が張られていたりはしないが,読み物としては充分楽しめる内容だった。

タイトルの中の「カッコウ」は,他の鳥の巣に卵を産み,自分の代わりに育てさせる,「托卵」をする鳥である。最初,実子でない娘を育てている父親に擬えているのだとばかり思っていたのだが,作中では,遺伝的に持って生まれた才能を「カッコウの卵」だとしている。しかし,この解釈はどうもしっくりこない。ミステリーなので,二重の意味に解釈できるような,ミスリーディングなタイトルを敢えて選んだのだと思うが,ちょっとこじつけっぽく感じられる。本作のテーマの1つに関わるキーワードと思われるのだが,こじつけのせいで,説得力を損なわれているような気がする。

まぁ,そういったことはともかく,遺伝子パターンによって,潜在的な才能を知ることが出来るというのは,個人的にはなかなか魅力的な話だと思う。勿論,何かの才能があると分かっても,それが自分のやりたいことと一致するとは限らない。しかし,ひとつの選択肢になることは間違いない。趣味や興味などというものは,環境に左右される部分も大きい。幼い頃から親が環境を整えてやれば,才能とやりたいことが一致するように誘導することも可能だろう。作中の娘が,スキーの道を選ぶきっかけとなったのも親の影響だし,世の中には同じような例がゴマンとある。

一方で,ある程度成長してしまってからだと,「嗜好」のような無意識に近い心理を,意図的に変えようとするのはなかなか難しいかもしれない。作中の,遺伝子パターンに基づいてスカウトされた少年のようなケースだ。ただ,いずれにしても,最後に選択するのはその人自身である。選択肢が増えて,悪いことはないような気がする。

但し,現実の運用を考えると,難しい問題がありそうだ。才能を本人だけが知って,自由意志で選択するのならよいが,第三者がフィルターをかけるために使うようなことがあってはまずい。才能のない人には機会を与えない,ということになると,差別にも繋がる。技術は,常に良心的な人間だけが利用する訳ではない。まして,国家権力に利用される可能性を考えると,極めて危険な技術と言わざるを得ない。どんなに法整備をしても情報は漏れるものだし,一旦漏れてしまったら,もうなかったことには出来ない。

また,例え本人だけが知るのだとしても,調べた結果,何の才能もないことが分かって,人生に絶望してしまう場合もあるかも知れない。自分はどんな結果を見ても大丈夫,なんて自信のある人だって,いざ現実を突きつけられると,冷静ではいられないのではないか。

人間の設計図ともいうべき遺伝子情報。言わば,究極のプライバシーである。慎重にして,しすぎることはない。そんなことを考えながら,この本を読み終えた。

それにしても,東野圭吾氏にはスキーを題材にした作品が多いな。


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